東京高等裁判所 昭和59年(ネ)607号 判決
右事実関係によれば、控訴人は、訴外会社に対し、三八〇万円の請負代金債務を負担したものの、現実には本件請負工事が中途で中断し、工事が完成するに至らなかったことにより、出来高分一五九万六〇〇〇円についてのみ支払義務を履行すべき関係となったところ、すでに二〇〇万円の前渡金が支払われていたことにより、訴外会社はもはや残代金の支払を要求しうる関係にはなかったものというべきである。
ところで、本件債権譲渡通知が控訴人に到達した日が昭和五八年七月一九日であることはさきに認定したところであるが、工事の進行が確定的に中断され、訴外会社において残代金債務の支払要求のできないことが確定したのはその後のことであるから、控訴人において右の事情を債権の譲受人である被控訴人に対して抗弁として主張することができるかについては、民法四六八条二項の解釈上検討を要する。しかしながら、同条項は、債務者の関与なくしてされた債権譲渡により債務者を不利な地位に陥れるべきではないとの法理により定められたものであるから、債権譲渡の通知の時に譲渡人に対する抗弁事由が現実に発生していることを必ずしも要求するものではなく、その事由発生の基礎が通知の時に存在すれば足りると解すべきところ(最高裁昭和四二年一〇月二七日第二小法廷判決・民集二一巻八号二一六一頁参照)、本件工事の請負代金については出来高払いによる支払約束があっただけでなく、元来、請負契約において請負人が受けるべき報酬債権は契約の締結と同時に発生するが、その支払義務は仕事の完成ないし引渡によって到来するものであり、本件においてもこのような性質をもった請負代金債権が譲渡の対象となったのであるから、控訴人の残代金の支払拒絶権が現実には右通知後に発生したものであっても、債務者たる控訴人はこれを譲受人たる被控訴人に対して対抗することができるものと解すべきである。したがって、控訴人の抗弁は理由がある。
(吉井 岡山 河本)